【抑止力】
会社からの帰り道。
家のそばの横断歩道での、ささいな出来事。
この道路は片道3車線もある太い通りにもかかわらず、
日中でもほとんど車が通らない。
なので、自分のタイミングで信号を渡っていく人がほとんど。
きっと信号が紫色に見えたに違いない。
僕も…見えるときがある笑。
夜23時。
いつものように通りに差し掛かる。
車の通りは、やはりない。
ふと通りの反対側に目をやった。
お父さんとお母さんと5歳くらいの女の子が、
女の子を真ん中にして手をつないて、
信号が変わるのを待っていた。
反射的に、僕も足を留めた。
良心が痛んだとかそういう類のものではなく、
本能的にといったほうが近いかもしれない。
夜の空気は澄んでいて、ぱきっと寒い。
それは、向かい側の親子の会話を
こちら側にまで届けてくれるほどだった。
「信号、まだ〜?」
「ま〜だだよ。」
女の子が両親に尋ねる。
あの子にとって、車が来る・来ないは関係ないのだ。
信号が赤だから止まる。ただ、それだけのこと。
僕の良心がちくちくした。
この通りにはマンションが多いこともあり、
この時間でも人通りはそこそこある。
当然、この信号を渡ろうとする人も。
面白いことに、このときだけは、みんなが信号に足を止めた。
足早に歩いてきたビジネスマンも
大音量で音楽を聴いているお兄さんも
99円ショップの袋を自転車のカゴに入れたおばさんも。
もちろん、みんなが待っているから自分も待つという
雰囲気で足を留めた人も多いだろう。
でもこの家族の持つ「抑止力」は効果抜群だった。
きっと、誰もが持つ、心の綺麗な部分に働きかけたからだろう。
信号の赤色よりも、
家族の暖かい姿のほうが
心への訴求力は遥かに強いのかもしれない。